平成11年の税制改正に関する
税理士 古徳正義の所感 



 國の一般会計の総額は81兆8601億円。
 結論を先に言えば、その内容は、まさに「狂気」というべきものである。
昨年、財政構造改革法のもとで、「財政再建」のための國の98年度(当初)予算を組んだ政府が、99年度では31兆円を超える膨大な国債は9兆3400億円。赤字国債は実に21兆7100億円という空前の巨額となっている。 これにより99年度末の国債発行残高は327兆円。地方債を含む國と地方の借金総額は600兆円を超えるものと見込まれている。これは日本のGDP(国内総生産)の1.2倍になる。まさに日本経済は破産状態にあると言うべきでしよう。驚くべきことに、このような財源難の折にも拘らず、景気対策と称して地方税を含む9兆円の大型減税が実施されていることです。しかも、この大型減税は、ほんの一握りの大企業・高額所得者の所得減税を中心とするものであり給与所得者の場合、年収793万円以下の者は増税となるものであって、その大義名分の不況克服には殆ど意味のないものである。
 大型減税の中心は、@個人所得課税の最高税率の引き下げ、A法人所得課税率の引き下げである。
 個人所得課税については、従前の所得税の最高税率は課税所得額3,000万円超が50%、個人住民税の最高税率は課税所得額700万円超が15%(道府県民税3%、市町村民税12%)であった。 国税(所得税)と地方税(住民税)の個人所得課税率は合計で65%であったが、これを50%に引き下げる。 具体的には所得税の最高税率を37%(課税所得額1,800万円超)に、個人住民税の最高税率を13%(課税所得額700万円超で道府県民税3%、市町村税10%)に引き下げられる。 課税所得額の階層別の税率は、最高税率の引き下げ以外は従前のままである。 基礎控除額等も据え置かれいる。 このほかに、所得税・個人住民税について定額減税ではなく定率減税が行われている。
 法人所得課税については国税(法人税)と地方税(法人住民税・事業税)との実行税率は従前46.36%であった。 これを国際水準程度にするために、40.87%に引き下げる。 具体的に普通法人について言えば法人税率を従前の34.5%を30%に引き下げ、そして法人事業税の税率を従前の5.6%(年所得400万円以下)、8.4%(年所得400万円超800万円以下)、11%(年所得800万円超)をそれぞれ5%、7.3%、9.6%に引き下げるという荒技である。
 憲法は所得税、法人税などの在り方について応能負担原則を要求している。(憲法13条、14条、29条等) 応能負担原則・累進課税の思想は人権論からいえば社会権の投影である。 所得税の最高税率についてみると1960年(第一次安保改定)から久しく75%であった。 それが84年に70%に引き上げられた。 売上税・大型間接税問題が国会の日程に登場した87年に60%に引き下げられた。 そして消費税が導入された89年に50%に引き下げられたことになっている。  今次の改正で課税所得額1,800万円超という低い階層で所得税率が最高税率(37%)になる。 財源難の折でもあり、かつ憲法の応能原則に従えば、たとえば課税所得額1億円超の高額所得層については所得税率をむしろ一段と引き上げるべきであった。 また法人税率は昨年の改正で37.5%から34.5%に引き下げられた。 それを今次の改正でさらに30%に引き下げるというのである。 日本の法人税率は、基本的に画一的な比例税率となっている。 加えて大法人を中心に特権的な免税措置である租税特別措置が適用されるので、日本の大法人の実質法人税率は従前から国際的にも低税率であったことは皆さんご承知の通りであります。 今次の改正はこの不合理、不公平を一段と拡大するものである。 繰り返すまでもなく、財源難の折でもあり、かつ憲法の応能原則に従えば、租税特別措置法を全廃し、法人税率も従前の所得税率に準じて10%から50%の超過累進課税率とすべきであった。 これに従えば日本の法人企業の大部分を占める中小法人の多くには低税率の10%が適用されることとなり、そうなれば、そのような法人税制改正が日本経済の活性化に資することにもなろう。 アメリカが財政再建に成功した?といわれる一つの理由として、1993年から個人・法人の所得課税における累進税率強化が指摘されていますが、この当たりに日本の政治家・有識人が着目すべきではないでしようか。
 我が国の99年度の予算編成に関連して、今一つの注目すべき事実があります。 ある学者の指摘によれば、法律学的にいえば、およそ考えられないような方法で消費税の「福祉目的税化」の法的環境づくりが行われたという事実である。 財政法22条は、予算総則に規定する事項を規定しています。 この財政法22条7号に「その他政令で定める事項」を予算総則に規定することとされている。 この規定を受けて「予算決算及び会計令15条」に、新たに次の条項が加えられた。 「十一、消費税の収入が充てられる経費(交付税及び譲与税配付金特別会計法第4条の規定による一般会計から交付税及び譲与税配付金特別会計への繰入金を除く)の範囲」 この規定に基づいて予算総則において消費税の使途を「福祉目的」に限定することとされた。 これが巷間、消費税の「福祉目的税化」と呼ばれる法的仕組みである。

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